古池の鯰


安養寺ではここ数年すっかり雪が減少し、
この冬はまだ一度も積雪を経験していません。
 
年末年始に除雪作業がないのは助かりますが、
雪に覆われて過ごした大晦日や新年が懐かしくもあります。
 
私は今年で安養寺住職に就任して3年目に入ります。
引き継ぎがやっと終わり、今年こそは自分のペースで過ごせそうです。
 
今年の私の抱負は、特別なことをするのではなく、
自分に与えられた役割を一つ一つ丁寧にこなしていくことです。
 
一昨年の辺りから、仏教瞑想について
質問を受けることが増えてきております。
 
瞑想に馴染みのない方から
「瞑想をするとどんな効果が得られるのですか?」
という質問を受けることがあります。
 
そのような時には、
「古池の鯰」の例え話をよくします。
 
安養寺の裏庭には古池があり、
モリアオガエルをはじめたくさんの生物が生息しています。
 
以前そこには古池の主と思われる
一匹の大きな鯰(なまず)が住んでいました。
 
鯰はお腹が減ると
餌を求めて池の中を泳ぎ回ります。
 
すぐに餌が見つかれば良いのですが、
なかなか餌にありつけないときもあるでしょう。
 
すぐに餌が見つからないと、イライラがつのってきます。
イライラしながら池の中を泳ぎ回っていると、
 
古池の底に沈殿している泥が巻き上がり、視界が悪くなり、
餌となる生物も警戒し、状況がますます悪化してしまいます。
 
この状況は、私たちがパニックに陥っている時や
心の中にモヤモヤやイライラを抱えている時の状況に似ています。
 
そのような状況に陥った時、
古池の鯰としてはどのように行動するのが良いでしょうか?
 
このような状況でできる最善のことは、
呼吸を整えながら静かに時が過ぎるのを待つことです。
 
息を潜めて、5分〜10分が経過すると、
巻き上がった泥が沈殿し、水が澄んで、視界が開けてきます。
 
月の光が差し込み、
餌となる生物も警戒を解いて再び動き出すことでしょう。
 
私たちもまた、心が動揺している時に、
物事を判断したり、行動したりするのは、賢明とは言えません。
 
心に余裕があり、曇りのない目で物事を観察できてこそ、
賢明な判断や行動ができるのです。
 
瞑想の基礎となる意識的呼吸法は、
動揺した心を鎮めるのにとても効果的です。
 
≪意識的呼吸法≫
 
息を吸いながら、息が入ってくることに気づきます。
息を吐きながら、息が出ていってることに気づきます。
 
息の流れを意識しながら、呼吸を繰り返します。
胸が膨らんだり縮んだりしてるのを観察するのも良いでしょう。
 
呼吸の流れをただ観察してるだけで、
自然にゆったり穏やかな呼吸へと変わっていきます。
 
呼吸がゆったり穏やかに変わっていくにつれて、
心の状態も徐々にゆったり穏やかになっていきます。
 
泥水の泥が沈んで、水が澄んでいくように、
心が落ち着きを取り戻し、澄んだ目で周囲を見渡せるようになります。
 
意識的呼吸法はどこでもできますが、
慣れるまでは静かな場所を選んで取り組むと良いでしょう。
 
心が落ち着ける場所でリラックスして実践なさってみてください。

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◆執筆者プロフィール◆ 
 井上寛照
 医王山安養寺住職
 高野山金剛峯寺阿字観能化
 サイモントン療法認定スーパバイザー
 MBSR (Mindfulness-Based Stress Reduction) Teacher
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