動き出せば何とかなる

2020年4月、新型コロナウイルス緊急事態宣言が発令され、外出を自粛せざるを得ない事態となりました。
私は山間部の寺院に住んでおり、建物や境内の中は自由に動くことができましたが、先行きの見通しはやはり立たない状態でした。
ジタバタしても仕方ないので、パンデミック終焉後に向けて、境内や山林の整備をすることにしました。
当時の裏山では、スギやヒノキが間伐されず長年放置されており、ナラやカシの樹木には大量の害虫が入り、いずれも倒木の危険を指摘されてましたが、範囲が広すぎてどこから手をつけて良いのか途上に暮れていました。
とりあえず動かないことには前に進めないので、建物の近くから草刈をして、石や枯れ枝を一つ一つ取り除いて、歩く道を整えることから始めました。
また、人力だけでは埒があかないので、小型重機(ユンボ)の免許を取得して、重機をリースして作業を少しずつ始めました。
そんな私の様子を見かねた近所の山林業者の社長さんから「何がしたいんだ?」と聞かれたので、「倒木の危険がある樹木を切って、彩りのある樹木を植えたい」と言ったところ、
「それならわしが全部切ってやる」といって、ロボットのような大型重機を何台も連れてきて約600本もの樹木を切ってくださいました。
さらに、樹木を切った跡に大量の枝葉が残っていて足の踏み場もない状態だったため、手作業で整地していると、再び大きな重機が数台現れて、大きな穴を掘ってすべて処分してくださいました。
その一方で、もう一つ大きな課題となっていたのは庭師の確保です。
これまで境内の手入れをしてくださっていた庭師が逝去され、近隣の庭師が次々と引退され、数年前から庭師が見つからず困っていました。
そんなある日、市内にある紅葉のきれいな寺院の住職と話してると、その庭園を整えた庭師(樹木医)を紹介してくださいました。
早速その庭師を訪ねて仕事を依頼しましたが、多忙を理由にきっぱり断られてしまいました。
しかし、庭師なしで素人だけでは境内も裏山もきちんと手入れできないため、「三顧の礼」のごとくその庭師のご自宅に何度も伺って、繰り返しお願いしました。
すると、私の本気度がようやく伝わり、その庭師はなんと造園業を廃業して、これまで関わっていた仕事をすべて断った上で、安養寺と某会社の2軒のみ個人的に仕事を請け負う形で関わってくださるとこととなりました。
そこから6年間、数々の悪戦苦闘がありつつも、安養寺裏山に1000本の紅葉や桜を植樹してもらうことができました。
予算についても、当初は個人の持ち出しが多かったものの、100名近くの方から寄付金が集まり、最終的には市の補助金も申請も通り、なんとか現在まで至ってます。
2026年4月現在、新緑の枝葉がぐんぐんと伸びていて、先々がとても楽しみです。
ただ、新たに楓に大量の害虫が発生するなど大きな課題もあり、まだ目を離せない状態ではあります。
これまでも困難な課題はいくつもありましたが、たくさんの方の知恵と協力で何とか乗り越えることができましたので、今回も何とかなると思っています。
振り返ってみれば、私自身がやったことは作業全体の1%にも満たないと思います。でも、まず私が動かなければ、6年経っても何も動かなかったとも思います。
『新約聖書』マタイ伝によく知られた一節があります。
求めよ、さらば与えられん。
探せよ、さらば見出ださん。
叩けよ、さらば開かれん。
物事を進めるためには入念な準備が必要であることは言うまでもないことです。でも、どんなに入念に準備していても想定外のことは次々と起こります。
ですから私は、登る山が決まって、その時点でベストのルートが見つかれば、とりあえず歩き出すことにしています。想定外のことが起こるのは覚悟の上です。あとは、歩きながら調整を繰り返します。
今年は安養寺の裏山・境内・建物すべての工事が一旦完了する予定です。是非遊びにいらしてください。
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◆執筆者プロフィール◆
井上寛照(いのうえかんしょう)
高野山真言宗少僧正
サイモントン療法認定スーパバイザー
MBSR上級講師 (certified by the IMA)
☆癒しの時間☆︎
・飼い猫と戯れる
・美味しいコーヒーを味わう
・露天温泉でほっこりする
・周囲の自然の変化に気づく
・一日の終わりに純米酒を一献嗜む
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